静岡ラーメン放浪記

名誉王トレントの決断
ピアズ・アンソニイ　著　山田順子訳

　アンソニイ　待望の「魔法の国ザンス」シリーズ第１７話である。
もう１７作になるのかと思うと、いささかの感動を覚える。

　第１作の「カメレオンの呪文」から始まるファンタジーの世界も、長い年月を通して変わりつつあるようだ。
登場人物（いやキャラクターといった方が良いか）もどんどん膨れあがってきて、もはや名前を聞いただけでは、どんな奴だったのか分からなくなっている。
なんせ一年に１冊ぐらいの進行なので、なかなか記憶に残らないのだ。

　この物語は「魔法の国」である「ザンス」でのお話だ。
登場するのは、人間、エルフ、ゴブリン、ハーピー、セントールなどなどの多種多様な生き物。
悪魔やドラゴンもぞろぞろ出てくる。

　その中では「魔法使い級」の魔力を持つ人間が登場し、それが歴代の「ザンスの王」として君臨する。
話には、人間の国である「マンダニア」が度々出てきて、様々な皮肉の対象になっているのもご愛敬だ。

　今回のあらすじは
ザンスでただ一人のハーピーとゴブリンのハーフの娘グローハが、理想の結婚相手を求めて旅に出るという話。
途中に様々な難関や怪物が登場して、一行を苦しめる。

　物語の大きな位置を占めているのが「ダジャレ」だ。
といっても英語のダジャレなので、一部分かりにくい（いやかなり分かりにくい）
例えば、登場するトロールという怪物の名前が「パ」
くっつければ「パトロール」というダジャレだ。

　これくらいだと日本の読者にも判るのだが、大部分は判ったようで判らない。
訳者の山田さんもそこら辺は熟知していて、上手く言い換えているのだが、さすがに限度はある。
でも、この訳は読みやすく、日本語としてかなりなじんでいる。
この大作の陰に翻訳者の大きな働きが隠されているのだろう。

　ちなみに原題は「Ｈａｒｐｙ　Ｔｈｙｍｅ」
日本語題にある「トレント」はザンスの元王位で、９６歳。
しかし「若返りの泉」の水を飲み、青年と化して、グローハの冒険を補佐する。
彼の「魔法の力」は生物を意のままに変身させる力である。

　息をもつかせぬ展開で、５６０ページを一気に読み切ってしまった。
さすがアンソニイだなあ。