静岡ラーメン放浪記

生物が子孫を残す技術　吉野孝一著

　最近ではフェロモンという言葉も結構有名になってきた。
このフェロモンだが、正しくはどういう物質かというと
体外に放出され、同種類の個体の行動に影響を及ぼす物質、なんだそうだ。

　「合図を運んで興奮させる」という意味で、その由来は
ギリシャ語の「フェレイン（運ぶ）」と「ホルモン（刺激する）」である。
言うなれば揮発性で空中を拡散してゆく「ニオイ」の一種ということになる。

　色々なフェロモンがあるが、やはり興味がわくのは「性フェロモン」でしょう。
昆虫などは行動半径も限られていて、交尾の相手を見つけるのは非常な苦労をする。

　そこでこのフェロモンが良き道しるべとなるのですね。
メスの発生するフェロモンに呼び寄せられて、わんさかとオスたちが集まってくるわけです。

　ゴキブリにもそのフェロモンがあります。
ある研究者は、２年がかりで４万匹のメスからやっと０．０４グラムのフェロモンを集めることが出来たそうです。

　それを分析した結果、化学構造が突き止められました。
炭素原子１０個からなる「ペリプラノン」と呼ばれる物質で、合成にも成功したといいます。

　これを使えば「ゴキブリほいほい」なんて問題じゃない。
吸い寄せられた哀れなオスを一網打尽、と行きたいところですが、残念なことにコストがかかりすぎるので実用にはされていません。
現在の「ゴキブリ捕獲器」にはフェロモンではなく、ゴキブリの好きな食べ物のニオイが使われているそうです。

　研究が進めば、害虫の駆除に「性フェロモン」は大きな効果が期待できるということです。

　ちょっと怖いのが「カマキリ」
カマキリは群れを作らないので、オスはメスを探して、飛び回る。
しかしメスはオスを探すわけではなく、無関心でいる。

　運良く（本当は運悪くなのかもしれない）メスを見つけたオスは、ゆっくりと背後から近づく。
というのはカマキリのメスは動くものに襲いかかるという習性があるので、悟られないようにするのです。

　にじり寄って、ころは良しと決断すると、オスはメスの背中にパッと飛びつく。
不意を付いたまま交尾が始まることになるのですね。
しかしこれからが修羅場になる。

　思いを遂げたオスが気を抜いた途端に、メスは首を回して、オスの頭にかじり付くのだ。
まだ交尾中なのにオスの頭はあっという間に食いちぎられる。

　ところがここからが凄いところなのですが。
頭部の無くなったオスが、急に活気を取り戻して、更にメスに迫るというのだ。
前よりもいっそう激しく、オスの交尾運動が行われるという。

　実はカマキリのオスの性欲の中枢は、その腹部にあるのです。
暴走しないようにそれをコントロールしているのが、頭なんです。
したがって抑制する頭部が無くなると、もうまっしぐらに進むしかないのですね。

　やがて力つきたオスは、メスにむしゃむしゃと食べ尽くされ、生まれてくる子孫の栄養源になるのです。
中には要領よく、無事に逃げ出すオスもいるそうなのですが、カマキリって命がけなんですね。

　こう見ると、人間の女性ってえのはなんて優しいんでしょうか。
オスの皆さん喰い殺されないように、御注意御注意。