静岡ラーメン放浪記

取材拒否の店

　まだまだ続くラーメンブーム。
ラーメン本は数多く出版され、
テレビでもランキングや特集などで、数多くの店が紹介されています。

　美味しいと評判になり、マスコミに取り上げられる。
それを見た客が押し掛け、行列が出来る。
ますます有名になり、行列店。店主はカリスマとして祭り上げられる。
こんな流れが、サクセスストーリーでしょうか。

　でも中には、頑なに自らのスタイルを守り通し、地元の固定客のみを相手に、独特のラーメンを供し続けてているお店もあるんです。
これ以上お客さんが来ると、味が変わるし、取材は煩わしい。
だから、テレビや雑誌の取材は一切お断り。
名付けて「マスコミ拒否の店」

　「取材拒否なのに、何で知ってるんだ！」という鋭い突っ込みはさて置き
今回出かけましたのは、東京品川区にある「イレブンフーズ」です。
創業３０年。とんでもないインパクトのある、ラーメンだそうです。

　品川駅から京浜急行で二駅、「新馬場」（しんばんば）で降ります。
東京は今日も３５度を超える炎天下。
汗をかきかき、探し歩く。
もちろん地図には無いし、看板も無し。
頼るのは番地のみの探索。
周りは　小さな町工場が点在する住宅街。
狭い路地の曲がり角から出てきた、場違いのサラリーマン二人連れ。
これだ！

　早速出てきたあたりに直行。
ありました。間口二間ほどの小さな店。
脇には赤く書かれた看板の残骸が、無造作に置かれている。
この店、まるで宣伝しようと言う気は無いらしい。
入り口右隅には、何故か洗濯機。
実はこれでラーメンに乗せる具を作るんです。
何を処理するのか分かった方、相当のラーメン通であると認めます。

　さて、お店は細長い造りで、左手に厨房、右手に逆Ｌ字形のカウンターが１０席。
正午の店内は満席状態で、行列は１名、待ち椅子はあるけど、立って待っている。
すかさず、後ろに並び、店内を伺うことにする。

　「ごちそうさま」
手前の席を立つお客。
当然のように丼を上げ、おしぼりで後を拭いていく。
ポケットから財布を出すと、千円札をカウンター角のお盆に置き、そこにある小銭を取る。

　何と、ここでは完全セルフサービスの支払いなのだ。
壁にはラーメン７００円、大盛り８００円、チャーシュー麺１０００円と書いてあるだけ。
何の説明もないのに、全員が忠実にシステムを守っていく。

　客と主人の会話も皆無だが、常連客だけの店なのだ。
当然客層は男性のみ。
サラリーマンと工員が半々といった感じ、これ全部地元の人だね。

　セルフのお冷やを取り空席に着く。
棚には輸入物の乾燥キクラゲがこれでもかと積まれている。
そう、先ほどの洗濯機はこれを戻すために、専用で使うのだという。

　席に着くと、注文を聞かれたので、迷わずラーメン。
厨房内は、白髪頭の親父さんと、多分息子さんと思われる若い衆。
彼が大部分の作業をする。
ラーメンはある程度をまとめて作る。
このときは６杯分、プラスチックの丼を並べる。

　見ると２種類あり、青く模様のないものが大盛り用になっている。
まず、醤油だれとぶつ切りの玉ねぎを入れていく。
麺を鍋に投入、この筋では有名な「酒井製麺」のストレート太麺だ。

　丼にスープを注ぐ。
その寸胴は、脂と野菜の残骸がぐたぐたに浮かんでいる。
網で漉しながら入れるのだがすぐに詰まるので、何回も分けながら注ぐ。
仕上げには、表面に浮かんだ脂をすくい、チョンチョンと追加。
別にもう一つの寸胴があり、そこから使った分をスープ寸胴に入れる。
何か複雑な作り方だ。

　茹で上がった麺を笊に取り、それぞれに分けていく。
まず並盛り分をすべてに分け、残りを大盛り分に追加する、割と几帳面なやり方だ。
親父さんは、そこにワカメを手で一掴み、キクラゲを一掴み、叉焼を二塊、海苔一枚。
チャーシュー麺にはきれい目に切られたものを、ドサドサッと乗せていく。まさにワイルド。

　「はいラーメンです」
眼前に差し出された物を、有り難く押し頂く。
テーブルには、胡椒、豆板醤、おろしニンニク、練り唐辛子、すべて業務用の大瓶が並ぶ。
胡椒を振ってスープをいただく。

　コッテリした、豚主体の醤油味。
家系のようなギトギト感はないのだが、チャーシューが凄い。
ちょうど端の所に当たったのだが、角煮と見間違うほどの大きさが２枚。
柔らかい煮豚で、脂コッテリ、コラーゲンいっぱい。
具のキクラゲは戻したまんまで、味付けもなし、これもデカい、笑っちゃいます。

　食べ進んでいくと、玉ねぎがいいアクセントになっている。
けっこう辛目なのだが、コッテリスープの口直しには最適なのだ。
色々なラーメンがあるが、インパクトでいったら間違いなく上位に入りますね。

　「ごちそうさま」
食べ終わった丼をさげ、かねて用意の小銭をお盆に置く。
店の前には、炎天下にもかかわらず、５人ほどの行列が並んでいました。
この店、何と朝８時からの営業だそうです。がんばってるなあ。

（以前訪問した時のものです）