2008.07.14 Monday
天丼はまぐり鮨ぎょうざ
天丼はまぐり鮨ぎょうざ
池辺良 著
池辺さんといえば、これはもう映画界の大スターです。
そんな池辺良さんの、食についてのエッセイをまとめたものです。
お生まれは大正7年(1918年)といいますから、亡くなった私の父親よりも年上です。
当然、戦争体験もあって、5年間の兵役生活を体験されています。
大学出の池辺さんは、幹部候補生で中尉でもあったそうです。
部隊の小隊長として、ニューギニアで飢餓体験をされています。
この本に書かれた食べ物も、贅沢なものは少なく、下町の食べ物が多いんですね。
良さんのお父さんが、これも有名な画家なんですが、食にうるさい。
思えば昔の人は、けっこうワガママだったんですね。
とにかく親と子のけじめはしっかりしています。
「そば」の講ではこんな話がありました。
良さんのおやじさんは大のそば好きで、十日に1回はすぐ近所のそば屋に出前をさせていた。
「盛りが七つ、天ぷらそば二杯、薬味の葱は大盛り、そば湯は熱く、湯桶は一番大きい奴がいい」
ちなみに家族構成は、おやじ、おふくろ、兄弟二人に手伝いの女の子。
全員で五人なのにこの注文なのです。
おやじさんの説明はこうです。
「みんなにも天ぷらそばを食わせてやりたいが、豪勢な海老の天ぷらなんか、おまえたち子供には贅沢だと思っている」
「だから盛りを二つも喰わせてやるわけだ」
「本来、そばと言えば笊そばが一番ではあるが、海苔の如き高級なものは子供に味が分かろうはずもない」
「分からないものを食わせるのは無駄なこった」
「無駄ってえのは役に立たないことだ」
「役に立たぬことに目鯨を立てると、人間損をする」
「天ぷらそば二杯は、俺とお母さんの分だ」
「俺たちは大人で、お前達の親だから、天ぷらそばを食べてもいい」
「そばを食いたいと言っても、盛りだけでは、俺もお母さんも可哀相だ」
「そう思うだろう」
「盛りが、一つ余る勘定になるが、これは俺の分だ」
「お母さんにも食わしてやりたいが、お母さんは、そばを食うと頭が痛くなって、目を回すから食わせねぇんだ。無駄だからな」
実に見事な屁理屈である。
思えば昔の人は、面白いほどに理屈が好きだったなあ。
飽食の時代に生きる私たちは、大切なものを失ってしまったんじゃないだろうかと、また一つ不安になります。
このおやじさんは「おみおつけ」の講では、こう言っています。
「東京のおみおつけの実は、一品に限る」
「芋だの大根だの、なんだかんだとごてごて入れるのは田舎式で粋じゃねぇんだ」
「味噌も薄く溶いて、薄味にするのが文化の香りってもんだ」
これ、私も同感です。
妻は健康に良いという信念からか「具沢山のお味噌汁」を作ってくれますが、私はこの「文化の香り」を楽しみたいんですね。
それにしても池辺さん、芝居も上手かったが、エッセイもまた逸品ですね。
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Comments
池部良氏といえば、真っ先に思い浮かぶのは『昭和残侠伝』の風間重吉ですね。
「唐獅子牡丹」が流れる中、健サンと2人で殴り込みに向かうシーンが思い浮かびます。
食に対する造詣も深く、『池部良の男の手料理』『風の食いもの』などの著書もあります。
面白そうなので、今度読んでみようかと思っています。
Comments
>ゴリさん
池辺さん、芝居もさすがでしたが、エッセイもさすがです。
本書には、戦争体験もほんの少し書いてありますが、極端な飢餓の世界を生き延びてこられたので、食に対する見方も優しいんだなあと思いました。
現代人は飽食に慣れすぎていて、ワガママに過ぎます。
昔の質素な生活も、たまには味わう必要がありますね。
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