静岡ラーメン放浪記

　ルールを知らないので守らない若者
知っているのに、自分の都合で勝手に破る大人
そんなことなど、もうすっかり忘れてしまっている老人

　いろんな人がいます。

　中国で牛乳にメラミンを混ぜるという事件が起こりました。
初めてこれを聞いた時、一瞬なんだかわけが分からなくなりました。

　なぜ牛乳にメラミンなのか。
この二つが結び付くはずがないと思っていました。
でも調べてみると意外な接点があったんですね。

　ところでメラミンとは何かと言いますと、化学式「Ｃ3Ｈ6Ｎ6」で表せる、窒素と炭素を主体とした有機化合物です。
メラミンの構造の中心にある、３個の炭素と３個の窒素からなる６員環構造を、「トリアジン環」と言って、実は学生時代には良く研究したものでした。
したがって私にとってはけっこう身近な存在だったわけです。

　しかしこのメラミンは、合成樹脂の原料です。
主に「メラミン樹脂」として用いられます。
これは「メラミン」を「ホルムアルデヒド」で架橋結合させて作る樹脂で、硬く熱に強い優れた性質を持つ合成樹脂です。
つまり純粋な工業原料でして、どう見ても食品に入れるわけがない。

　そんなわけで、想定外の物質ですから、検出するという発想そのものが出てこないわけです。
ところが、実際には中国で牛乳にメラミンを混ぜたと言います。
その理由を聞いて驚きました。
何と「品質を良く見せるため」だといいます。

　牛乳の主成分は「タンパク質」でそれを構成しているのが「アミノ酸」です。
水を加えたりして、牛乳を薄めることが問題になっていて、それを防ぐために検査をします。
その時に調べるのが「窒素の含有量」なんだそうです。

　普通のアミノ酸は、１つの分子に１個の窒素原子を持っています。
そこで規定量の牛乳を元素分析して、その中に窒素が多ければ、アミノ酸の多い濃い牛乳、逆に少なければ、水を混入したかも知れない怪しい牛乳、となるわけです。

　ところで、先ほど上げたメラミンの化学式に注目してください。
Ｃ3Ｈ6Ｎ6　（このＮが窒素です）という、珍しいほど窒素の含有率が多い物質なんですね。
しかも無色無臭で水にもそこそこ溶けます。
更には中国国内においてこのメラミンは、生産が多くなっていて供給過剰で、値崩れをおこしていたそうです。

　どうしてそんな発想ができたのか、化学者としては本当に信じられないんですが、恐ろしいことを考えました。
牛乳を水で薄めてメラミンを添加すると、高品質の牛乳に早変わりして、更に量も増える。
こんな錬金術を完成してしまったんです。

　想定外の物質ですから検出されるはずもなく、まんまと騙されてしまったんですが、悪事は長続きしません。
毒性の少ないメラミンとはいえ、体重の少ない乳児には影響が大きく、中国国内で大問題になりました。
ペットフードにも問題が出ていて、それが真相解明の発端になったと言います。

　かつて馴染みがあったメラミンが、悪者のように扱われているのは悲しい気分です。

　ルールは守らなくては行けません。
しかしルールに書いてなければ何をしても良い、とは限りません。

　私たちにとって大切なのは、ルールを決めることよりも良心を磨くことなのかも知れませんね。