2010.01.21 Thursday
ナマコのからえばり
ナマコのからえばり
椎名誠 著
大ファンである作家、椎名誠さんのエッセイ集です。
本書は「サンデー毎日」に連載されていたものをまとめた1冊で、「週刊文春」の連載分とはとはひと味違うそうですが、私にはその違いがよく分かりません。
ところで表題にどうして、「ナマコ」が出てきたのかといいますと、椎名さんはナマコが大好きなんだそうです。
好きで好きで、ナマコになりたいとさえ思ったといいます。
そしてさらにもう一つ深い因縁があります。
彼は体の中にナマコを持っているんですね。
確かに「シイナマコト」の中に「ナマコ」が入っているんです。
椎名さんは「麺の甲子園」という企画で1年半にわたって日本全国の麺を食べ歩いたそうです。
もちろん大の麺好きということでも知られていますが、お仕事とはいえ実に羨ましいです。
しかし面白いことに、この企画が終了してから反動が来たのかラーメンを全く食べなってしまったといいます。
さて、本文から抜粋して一部を紹介してみます。
テレビの美味いラーメン探訪番組などでタレントが大げさに感動しているのは仕事上のかなりの過剰演技と思ったほうがいい。
人気店のいくつかは、麺は硬めに、とか柔らかめに、味はすっきりとかこってりとか、トッピングは何などといろいろ細かく微調整のオーダーを受けたりしているのだが、そういうのはセコイしかえってわずらわしい。
その店の「堂々の勝負味」という決め打ちがないのか!
とかえって不思議に思ったものだ。
中略
流行の店に開店前から並んでいるのは、小太りうつむきかげんのラーメンおたくふうが中心でかなりの若年性メタボっぽい。
行列には共同幻想があるようで、その基本は幼稚で画一的。
雑誌などのうまいラーメン記事は孫引きが多く信用できないのに。
我々の「出口調査」ではそういう情報で来る客がけっこういた。
中略
行列ができるというので店の親父が「おれ、もしかすっと名人なのかな」なんて勘違いして妙にエラそうになってしまって、ラーメンができるのを待っているあいだの客の私語を禁じたり、週刊誌などを読むのを禁じたりしているアホな勘違い店もけっこうあった。
中略
結局静かにこの道何十年、という感じでやっている地方の地味な店においしいのがある。
先代から続いたこの味一筋でやっているだけというような店がいいのだ。
こういうところはたいてい地元の常連客が中心客層だから中に入って黙って座るとすぐに察しはつく。
厨房に複数の人が入っていて休みなく働いており客席に聞こえるような私語はなし。
目先のきいたフロア係のおばちゃんなんかがいる。
汚れた週刊誌は置いていなくテレビもない。
テーブルに古い灰皿もない。
中略
逆にまずい店のポイントもわかってきた。
店内の従業員がデカい声で私語をかわしているところ。
プロじゃない。
驚くほど沢山のメニューがあるところも信用できない。
有名人の色紙がいっぱい貼ってあるところ。
以下略
どうです、何とはなしに正鵠を得ているように思えませんか。
耳が痛いという方もいらっしゃるかと思います。
おいしいラーメンというのも人さまざまですが、私たちはマズコミの評判に弱いですね。
雑誌や週刊誌などで持ち上げられていると、どうしても有名店の評価が甘くなります。
「限定の何々を使用」とか「厳選された素材で」とか「通常の何倍もの手間を掛けて」などのウンチクにも弱いですね。
自分の舌で味わうのでなく、情報で味わうようになっては悲しいものです。
最近思ったことですが、同じ言葉でも語る人によって全く重みが違ってくることがあります。
たとえば、「今まで食べたタンメンの中で間違いなくベスト3に入る美味しいタンメンだ」
という記事があったとします。
山本益博さんあたりが書いていれば、これは美味そうだとメモしたくなりますが、どこの誰かもわからないし、年齢性別さえも不明という方だったらどうなのか。
まさか今までに食べたタンメンが3杯だからベスト3ということはないと思いますが、怪しくなります。
インターネットというのはまさにその最たるもので、書き込んでいる人物がどんな方なのかさっぱりわからない場合があります。
そんな情報を上手くフィルタリングして判断するのことが大切なんですが、時により難しいこともまたしばしばあります。
人目を引きたいけれどもどうも自分の文章では説得力がない。
ただ食べたら美味しかった、ぜひお勧めします、不味かった、サイテーの味だ、という繰り返しでなんともつまらない。
そんな時に人間は権威付けをしたくなるわけでして、何々に書いてあった、○○で絶賛されたという飾りを付けます。
味を表現するのは難しいですが、厳選素材で手間暇かけたこだわりの味と書いておけば理屈が通ります。
自分の舌よりも頭のほうが役に立つわけでして、それならわざわざ食べに行かなくても記事は書けます。
中にはそれがいいんだとおっしゃる方もいますから、実害はないのかも知れませんが、どうしても気になる時があります。
いずれにしても嗜好というのは千差万別ですし、美味い不味いの判断もそれぞれだと思います。
「美味しいラーメン」というのもなかなか難しいものですね。
そんなことを考えながら楽しく読めた一冊でした。
Trackback URL
http://denkigama.tblog.jp/trackback/241271
- ブログのお引っ越し (05/31)
- 弁慶@紺屋町 (05/30)
- ナカミヤ@さらばレバ刺し (05/29)
- レバ刺し禁止令 (05/28)
- らあめん花月嵐@中華そば竹食堂 (05/27)
- 豚龍@下島
⇒ 電気がま (11/30) - 豚龍@下島
⇒ いし (11/30) - 平成元年のベストテン その2
⇒ 電気がま (10/24) - 平成元年のベストテン その2
⇒ shake-jp (10/23) - 高揚@東中野
⇒ 電気がま (03/31) - 高揚@東中野
⇒ 原口 (03/31) - 天神屋には行かないぞ
⇒ 電気がま (08/10) - 天神屋には行かないぞ
⇒ ママ (08/09) - 三勝そば@川合
⇒ 電気がま (05/20) - 三勝そば@川合
⇒ 電気がま (05/20)
- ルミネtheよしもと@久しぶりで
⇒ https://www.newsbreak.com/news/3264401580966-chang-s-beach-maui-s-hidden-gem-featured-in-maui-now-gu (12/21) - 三好屋平和店@平和
⇒ 瀬名川通信 (03/05) - 駒形石ヶ谷@駒形通
⇒ 瀬名川通信 (01/17) - くさデカに第二美濃屋さんが登場
⇒ 瀬名川通信 (01/14) - みんみん@ワンタンメン
⇒ 瀬名川通信 (11/20) - 天下一@新伝馬
⇒ 瀬名川通信 (10/05) - 自転車はルールを守って
⇒ ごはんとさっかーとぐだぐだと (05/29) - 久松@瀬名川
⇒ 瀬名川通信 (03/07) - 紀尾井@宮ヶ崎町
⇒ 瀬名川通信 (02/01) - 清見そば本店@満員でも
⇒ Fat-Diary (01/18)
- May 2015 (27)
- April 2015 (27)
- March 2015 (26)
- February 2015 (24)
- January 2015 (25)
- December 2014 (27)
- November 2014 (26)
- October 2014 (27)
- September 2014 (27)
- August 2014 (31)
- July 2014 (28)
- June 2014 (26)
- May 2014 (27)
- April 2014 (26)
- March 2014 (26)
- February 2014 (23)
- January 2014 (26)
- December 2013 (27)
- November 2013 (28)
- October 2013 (27)
- September 2013 (27)
- August 2013 (28)
- July 2013 (27)
- June 2013 (24)
- May 2013 (27)
- April 2013 (27)
- March 2013 (26)
- February 2013 (24)
- January 2013 (24)
- December 2012 (27)
- November 2012 (26)
- October 2012 (27)
- September 2012 (25)
- August 2012 (27)
- July 2012 (26)
- June 2012 (26)
- May 2012 (29)
- April 2012 (25)
- March 2012 (27)
- February 2012 (23)
- January 2012 (24)
- December 2011 (27)
- November 2011 (26)
- October 2011 (26)
- September 2011 (26)
- August 2011 (27)
- July 2011 (26)
- June 2011 (26)
- May 2011 (27)
- April 2011 (26)
- March 2011 (14)
- February 2011 (24)
- January 2011 (24)
- December 2010 (27)
- November 2010 (26)
- October 2010 (27)
- September 2010 (26)
- August 2010 (26)
- July 2010 (27)
- June 2010 (26)
- May 2010 (26)
- April 2010 (26)
- March 2010 (27)
- February 2010 (24)
- January 2010 (24)
- December 2009 (27)
- November 2009 (25)
- October 2009 (27)
- September 2009 (26)
- August 2009 (25)
- July 2009 (28)
- June 2009 (22)
- May 2009 (20)
- April 2009 (26)
- March 2009 (26)
- February 2009 (21)
- January 2009 (25)
- December 2008 (26)
- November 2008 (25)
- October 2008 (28)
- September 2008 (26)
- August 2008 (24)
- July 2008 (27)
- June 2008 (25)
- May 2008 (27)
- April 2008 (26)
- March 2008 (23)
- February 2008 (23)
- January 2008 (23)
- December 2007 (23)
- November 2007 (24)
- October 2007 (27)
- September 2007 (21)
- August 2007 (24)
- July 2007 (24)
- June 2007 (25)
- May 2007 (24)
- April 2007 (27)
- March 2007 (27)
- February 2007 (28)
- January 2007 (28)
- December 2006 (27)
- November 2006 (29)
- October 2006 (30)
- September 2006 (29)
- August 2006 (28)
- July 2006 (30)
- June 2006 (29)
- May 2006 (30)
- April 2006 (25)
- March 2006 (11)
- December 2005 (1)
- November 2005 (3)
- October 2005 (3)
- September 2005 (6)
- August 2005 (4)
- July 2005 (4)
- June 2005 (4)
- May 2005 (5)
- April 2005 (4)
- March 2005 (5)
- February 2005 (4)
- January 2005 (2)
- December 2004 (4)
- November 2004 (5)
- August 2004 (1)
Comments
大賛成です。
所詮、ラーメンです。
って言うか、食べ物は、個々の好みが重要かと。
えらそうに、語る人の気が知れません。
(でも、ブログに記事は気になるんです・・・。)
Comments
>?さん
申し訳ありませんがコメントにはハンドルネームを入れていただくようにお願いいたします。
本文にもありますように、相手の見えない状態での批評を私は好みませんのでご了承下さい。
Comments
まことに申し訳ありませんでした。
ハンドルネームをこうしちちと申します。
いつもブログ楽しく見させていただいております。
Comments
>こうしちち さん
再度の丁寧なコメントありがとうございます。
勝手ではありますが、某チャンネルのような「匿名で言いたい放題」の書き込みは大嫌いなんでご理解下さい。(笑)
ラーメンを初めとする食べ物の美味い不味いは環境に大きく左右されるもので、一度や二度でははっきりしないと思います。
たとえばお腹が空いている場合や、体調が悪い時など、味覚はかなり変化しますね。
それを割り引いて機械のように評価できるわけもなく、味を絶対的な点数で評価することには疑問を感じる次第です。
でも個人的な感想をブログなどで書くのは、見ていても気になりませんし、独善的なものは見ませんから問題もないです。
こうしちちさんのおっしゃるとおり個々の好みの問題ですから仕方がないですね。
私も偉そうなことばかり並べずに、他山の石とせねばいけません。
ご教授ありがとうございました。
これからもご愛読をよろしくお願いいたします。
Post a comment