2010.02.15 Monday
内なる虎と戦え
内なる虎と戦え
遠い昔に 源 俊頼 という方がいらっしゃいました。
有名な平安時代後期の歌人です。
その著した歌論書「俊頼髄脳」にこんな寓話があります。
ある男が荒野を横切ると、突然虎が襲ってきた。
走って逃げるうちに、古井戸のような穴を見つけたので、草のつるを命綱代わりにしてぶら下がった。
これで一安心と思い、ふと井戸の底を見ると、ワニが大口を開けて男を待ちかまえている。
穴の入り口を見上げると、そこには虎が鋭い牙をむき出しにして、男を喰おうと狙っている。
もはや頼みは草のつるだけ。
しかし何ということだろう。
白と黒のネズミが交互にやってきては、そのつるを囓るのだ。
さあどうすればいいのか?
俊頼に寄れば、凡俗の私たちの置かれた状況はこの男と同じだといいます。
このお話は寓話なので、登場するものには別の意味があります。
井戸の底で口を開けているワニは、死後に行き着く地獄。
命綱を囓るネズミは過ぎゆく時間です。
白ネズミは日、黒ネズミは月だといいます。
そしてこの穴まで男を追いつめた虎は、今まで犯した罪や業(ごう)なんです。
しかしここで登場する虎は、勝手に襲いかかってくる災難ではないところがひと味違います。
この虎はわたしたちの内から生じたものです。
日々の暮らしの中で、さしたる意識もせぬままおかしているたくさんの罪科(つみとが)が、塵埃のようにゆっくりと折り重なってゆく。
そして、その塵が積もりに積もって、やがては山ならぬ恐ろしい虎となって、当の本人に襲いかかってくる。
さて、そこでどうしたらよいのかというのが大事なところですね。
俊頼さんはこう言いたいんでしょう。
逃げるな。
切れかかっているつるを、今すぐに登れ。
そして罪障煩悩(ざいしょうぼんのう)の虎と、真っ向から対峙せよ。
この虎ばかりは加藤清正でさえも手に負えない。
退治できるのはあなただけだ。
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