2013.06.21 Friday
ベルトの穴が
ベルトの穴が
「ベルトの穴が一つ少なくなります」
そんなうたい文句につられて商品を注文しました。
「効果は絶対保証」
というので安心していたのですが、届いたものを見てびっくり。
箱に入っていたのは、「ベルトの補修材」でした。
たしかに穴は減りますが、穴だけ減ってもなぁ。
怖い乗り物
私はジェットコースターが嫌いです。
よりによってなぜあんなに怖い乗り物にわざわざ乗るのか。
喜んでいる方々の気持ちがしれないです。
女性でもそういうものがお好きな方はいらっしゃいまして、急角度のジェットコースターにも喜んで乗っています。
そんな彼女でも怖い乗り物があるようです。
「今まで一番怖かった乗り物はなに?」
少し考えて言った言葉は
「ヘルスメータ」
良妻の条件
良妻と呼ばれるための条件は色々とあります。
料理が美味しい。
いつも笑顔でいる。
会話がなごむ。
でもその中でも一番大切なものはなにかお教えしましょう。
それはトイレのお掃除なんです。
いい奥さんになろうと思うなら、トイレ掃除が一番大切です。
だってもし手抜きなんかしようものなら、お客さんにいわれますよ。
あ、くさい。
2013.04.05 Friday
小話2013
小話2013
女王アリ
同じように見えても、女王蜂と女王アリとでは、性格がまったく違うそうです。
そのどちらがよろしいかというお話。
働き蜂に傅かれて、ふんぞり返っているのが女王蜂。
この方は生まれついての見栄っ張りでして、かなりの厚化粧です。
少しでも自分を美しく見せようとして、あちこち塗りたくっています。
そのお体は花粉や蜂蜜で、ぴかぴかに輝いております。
ところが、もう一方の女王アリは、質素そのものだそうです。
飾ることもなく泥だらけの湿った巣で黙々と卵を産み続ける。
かと思えば、働き疲れて帰ってきた働き蟻さんにねぎらいの言葉を掛けたりすることもあるそうです。
「ごくろうさん、また頑張ってね」
そんなわけで、「女王アリ」はありさん仲間からは固く信頼され、尊敬されているんです。
私たちも見習わなくてはいけませんね。
やっぱり、「アリのママ」が一番です。
河川でのタブー
気候も穏やかになって、これからはキャンプにいい季節です。
ゴールデンウィークでは海辺や川原でのバーベキューがよく見られますね。
今では便利な調理器具もありますから、野外でもほとんどの料理が出来ます。
焼肉が定番ですが、揚げ物でも出来ますし、バリエーションはかなり広いです。
ところがポピュラーな料理でみなさんに親しまれているのに、野外ではまず見かけたことがないものが一つあります。
それは、「鍋もの」です。
どうでしょうか。
野外で寄せ鍋やキムチ鍋などは、まずやらないでしょう。
あ、もしも、「よくやります」という方がありましたらごめんなさい。
実はこれには深いわけがあるんです。
みなさん、河原での「鍋料理」は、絶対にやってはいけません。
これは古来から永く言い続けられてきた常識です。
え、なぜかって。
鍋のシメにはあれが付き物ですね。
河川の増水(雑炊)には厳重注意ですから。
一番は
これはある指揮者さんに聞いたお話です。
ボランティアで素人の合唱団の指揮指導をされている方です。
小規模なものから大人数の合唱団まで、構成はさまざまだそうですが、なかなかに苦労の多い仕事だといいます。
「やっぱり男性よりも女性の方がやりやすいんですか?」
「基本的にはモチベーションだね」
「人数が多いと手を抜く人が出てくるので、なかなかまとまらないんですね」
「年齢ではどうでしょうか」
「リーダータイプの方がしっかりしていると、かなり楽になります」
「自主的に練習してくれると、こちらは仕上げだけなのでずいぶん違ってきますね」
「混声合唱団、市民合唱団、いろいろありますが一番やりやすいのはどれですか」
「スイッチを押すと、勝手に合唱を始めてくれる合唱団があるんだ」
「こっちは何もしなくて良いんだから、楽なもんだよ」
「えーっ、そんなのあるんですか?」
「うん、児童(自動)合唱団」
2012.06.22 Friday
万事休す
万事休す
お茶とコーヒーが度胸試しをやった。
しかしこの2人、なかなか根性があっていずれも甲乙付けがたい。
それじゃあ最後の大勝負だと、「バンジージャンプ」で決着を付けることになった。
ルールは簡単。
お互いがたっぷり入った器を、ロープに結びつける。
それを橋の上から落として、バンジージャンプ。
一滴でも多く残した方の勝ちと決めた。
まずはコーヒーが挑戦。
しっかり者のコーヒーは、蓋をきっちりとはめたサイフォンで挑戦した。
これならこぼれる心配はない。
余裕を持ってジャンプしたコーヒーだったが、そこにすきがあった。
今日のコーヒーは少し温めだったのだ。
おかげで中の圧力が弱く、蓋が少しずれてしまった。
渾身の力を込めて押さえつけたものの、あえなく半分以上がこぼれ落ちてしまった。
がっかりと肩を落とすコーヒー。
サイフォンだけに、なで肩が哀愁を誘う。
これをみて安心したのがお茶だ。
いささか苦戦するかと思っていたが敵方の油断で棚からぼた餅が転がり落ちてきた。
あとはきちんと対応すれば勝利は目の前だ。
お茶が取り出した対策はなんと、「ティーバッグ」だった。
これなら完全に密閉できて、こぼれ落ちる心配はない。
湯飲みに蓋をしてロープを結びつけ、自信満々で飛び込んだ。
重力にしたがって、すんなりとお茶は一番下まで到達した。
しかし、お茶には大きな誤算があった。
最後の土壇場で、思いもよらぬ相棒がすべてを変えてしまったことだ。
「俺を追い出すなんて、どういう心得違いだ」
幼い時からいつも一緒に歩いてきた、唯一無二の親友が、お茶の裏切りを許さなかったのだ。
「ティーバッグの野郎と組むなんて絶対に許せねえ」
彼は、湯飲みに軽く油を塗って置いたのだ。
加速の付いた湯飲みは、するっとロープが外れてしまい、叩きつけられたお茶は見事にすべて流れ落ちた。
勝利に喜ぶコーヒーと、無念やるかたないお茶。
「だから俺に任せろといったんだ」
お茶の親友が胸を張った。
振り返ったお茶が、そいつを見てはたと気が付いた。
「お前は、急須じゃあないか」
「そうだった、お前を忘れていた」
お茶が反省してももう遅い。
「バンジーきゅうす」
2011.01.04 Tuesday
うさぎの帽子屋さん
みなさま
明けましておめでとうございます
新年最初のブログは童話でスタートします。
もちろん主人公は今年の主役、うさぎさんですね。
うさぎの帽子屋さん
学校帰りの回り道、ゆきちゃんは近所の公園を歩いていました。
今日は何となく浮かない気分です。
それというのは隣の席のそうちゃんがいじわるをするからです。
今日だって、忘れ物をしたというから貸してあげた消しゴムに小さな歯形が付いていたんです。
(せっかく貸してあげたのに)
それなのに怒ってもそうちゃんは笑ってごまかすだけです。
(もう貸してあげるの止めようかな)
公園のブランコに腰掛けてぶらぶらと揺れているゆきちゃんでした。
「おっとごめんよ」
どこからか小さな影が飛び出してきました。
よそ見をしていたのか、ゆきちゃんのこいだブランコにぶつかりそうになって、あわててよけます。
よけた拍子に、背負った包みから何かがポロリと芝生に落ちました。
そうとも気付かず、その人は向こうへ歩いてゆきます。
「おとしものですよ」
親切に声を掛けてあげたのにその人は知らんぷりです。
とっと、とっとと向こうへ消えてしまいそうになります。
ゆきちゃんはとうとうブランコを降りて走り出しました。
「落とし物ですよ」
よかった気付いてこちらを振り返りました。
「おやおじょうさん、どういたしましたか?」
振り向いたその顔は、何とうさぎさんです。
「何か落としましたよ」
ゆきちゃんが拾い上げたそれは小さな帽子でした。
「おやおやこれはたいへんです」
とっとことっとことこちらにやってきたうさぎさんは、あわててその帽子を受け取りました。
「大きなおじょうさん、どうもありがとうございます」
ぺこりと頭を下げて微笑んだお顔は、学校で飼っているうさぎさんにそっくりでした。
「急ぎのお届け物をしている途中だったので、ぜんぜん気が付きませんでした」
うさぎさんは背負った風呂敷包みを芝生に下ろすと、大切そうに受け取った帽子をそこにしまいました。
そして何事もなく歩いて行こうとして、ふと気が付いたふうにゆきちゃんを見つめました。
「そうだ大きなおじょうさん、お礼にこれを見せてあげましょう」
帽子屋さんが包みから取り出したのは、小さな野球帽でした。
黒と白のしま模様がきれいな、かわいい帽子です。
「かぶってみて下さいな」
でもそれはゆきちゃんの小さな頭よりも、もっともっと小さな帽子でした。
いくらちいちゃなゆきちゃんでも、これは無理というものです。
でもあんまり帽子屋さんが勧めるので、気の毒だからまねだけでもしてみようかなと、ゆきちゃんは帽子を受け取りました。
そしてそれを頭に乗せると、不思議なことにちょうどぴったりと頭に合いました。
(へえ、意外と大きいんだ)
おや、何か声が聞こえてきます。
「しくしく、しくしく」
男の子が泣いています。
それはどこかで聞いたことのあるような声でした。
(あ、そうちゃんだ)
なぜかゆきちゃんにはすぐに分かりました。
そして思い出したことがあったのです。
それは一月ほど前のことでした。
「そうちゃんのおかあさんが入院したらしい」
そんなうわさでした。
けがなのか病気なのか、そうちゃんに聞いても何にも話してくれません。
「うん、だいじょうぶだよ」
いつものようにあっけらかんとしているそうちゃんです。
心配していたみんなもそのうちすっかりと忘れてしまいました。
でもゆきちゃんはそれから時々、そうちゃんがさびしそうな顔をしているのを見ることがありました。
しっかり者のそうちゃんがたびたび忘れ物をするようになったのも、それからのことでした。
なぜか分からないけれど、そんなさびしい気持ちが野球帽から伝わってくるように感じて、思わず目を閉じてしまったゆきちゃんでした。
「おこったりしてごめんね」
自分でもよく分からなかったのですが、そう叫んでしまいました。
するとどうでしょう、また男の子のこんどは明るい声が聞こえてきたのです。
「ぼくだってごめんね」
ビックリして目を開けたゆきちゃんの頭には、もう何にもありませんでした。
きょろきょろあたりを見回しましたが、いつの間にかあのうさぎの帽子屋さんもいませんでした。
急に春のつむじ風が吹いてきて、公園の木々をざわざわとゆらしはじめました。
さっきからブランコは止まったままです。
遠くでカラスの鳴く声がしました。
夕日がきれいで、もうゆきちゃんがお家に帰る時間をとっくに過ぎていました。
鉄棒にかけておいた赤いランドセルを背中にしょって、公園を出たゆきちゃんです。
(あしたは笑って消しゴム貸してあげよう)
いつの間にかすっかり元気になって、お母さんにおこられないよう急ぎ足で帰って行くゆきちゃんに、真っ赤な夕日がほほえみかけていました。
2010.12.20 Monday
忠犬はやぶさ
漫才「忠犬はやぶさ」
*大拍手のなかを両名登場
山 山ちゃんでーす。
川 川ちゃんでーす。
両 二人合わせて、山川豊
川 みちのーくーひとりたーびー。
山 それは山本譲二でしょ。
川 というわけで、今日もやって来ました「山川兄弟」
しばらくおつき合いのほどをお願いいします。
山 なんや、うまくまとめたなあ。
川 ところで最近の話題といえば、なんやね?
山 そりゃあもう、「はやぶさ」やなあ。
川 なに、あのハヤブサが有名なんかい
山 おや君、ハヤブサ知ってんのか?
川 うん、何、そりゃあ知ってるさね。
山 ほんまかいな、あの有名なはやぶさやで。
川 ああ知ってる。ついこないだも見たしな。
山 ええ、どこでや
川 ああ、うちの近くを回ってたわ
山 回った?
川 ウン回った、嬉しそうにしっぽ振って回っとったわ。
山 君、それ犬と違うか?
川 そや。
山 なんや、犬かいな、あほらし。
本物のはやぶさはなあ、長ーい旅して帰ってきたんやで。
しかも、えらいごっついお土産まで持ってきはったんや。
川 それならうちの近所のハヤブサくんも同じや。
いつもお使いによう出かけとるわ。
山 おや、お使いもするんか、その犬。
川 首に袋下げてな、近くのお肉屋さんまでコロッケ買いに行くんやで。
山 ほう、大した利口な犬やな。
川 それがそうでもないのや。
山 というと
川 いつもはよかったんやが、今日は少し遠い、「糸川」さんちへお使いや。
山 ほう、そうかい
川 何でも世界で初めてというお使いらしい。
山 そりゃあ大げさだ。
川 家中の声援を背にうけて、ハヤブサくん元気良く飛び出した。
山 ワンワン
川 ところが困ったことがおきたんや。
山 トラブルやな
川 隣町で野良猫にちょっかい出されたらしく、迷い迷って二三年。
山 二三年かい!
川 それでもハヤブサくん、御主人の恩義を忘れずに帰ってきた。
山 何と忠義なやっちゃなぁ。
川 我が身は燃え尽きようとも、このカプセルだけは何とか。
山 もう大げさなやっちゃ
川 息絶え絶えに帰ってきた、オーストラリアの砂漠、いや西草深の我が家だ。
山 いやあ良かった良かった。
川 ところがギッチョン、買ってきたはずのコロッケがない。
山 まあ三年も経てば、仕方ないわな。
川 怒った研究員、いや御主人さんはにっくきハヤブサをバンバンと叩いたなあ。
山 ええっ、そりゃ可哀想に。
川 そうするとなぁ
山 そうすると
川 何と奇跡が起きたんや。
山 軌跡かい
川 あるはずがないと思っていた、買い物袋から。
山 買い物袋から
川 なんと
山 なんと
川 驚くことに
山 驚くことに
川 全く
山 全く、って早くせんかい!
川 コロッケのカケラが出てまいりました。
山 もう良いわ
両 どうもありがとうございました。
*爆笑の中を両者退場
2010.08.03 Tuesday
暑中お見舞い
暑中見舞い
あいかわらず暑い毎日ですねえ。
そこで暑さを吹っ飛ばすような、爆笑小話を4編お届けします。
これを読んで、暑さを笑い飛ばしてください。
かたつむり
「子供がだね、冬眠中のカタツムリを探してきたんだ」
「へえ、そんなもの良く見つけてみたもんだ」
「外は寒くて可哀想だと」
「でもそりゃあ仕方がないね」
「暖めてあげようと、こたつに入れておいた」
「余計なお世話かもしれないがね」
「そうしたら、すっかり忘れてしまって」
「おやおや」
「次の日に気が付いたらすっかりミイラになって大騒ぎだ」
「やっぱり、こたつ無理 だな」
カニ
私は蟹が大の苦手です。
したがって蟹の足だけならともかく、自然の状態の蟹はめったに見ません。
でも蟹が好きな方は多いようでして、丸ごと茹でた毛蟹を見事に解体して食べています。
その蟹をさばくには色々と手順があるようでして、お腹の側をまず外すんだそうです。
この部分を、専門用語(?)では、「蟹のふんどし」というんだと教えてもらいました。
ところで、蟹がふんどしをしているというのもおかしいものですから、これは別の名前の方が良いでしょう。
場所や形態からいって、「おむつ」というのがよろしいかと思います。
なぜかといいますと、やっぱり、
かにおむつ、ですな。
ボランチ
「おーい、人数が足りないからサッカーのメンバーに入ってくれ」
「なんだよ今日は見てるだけのはずだぜ」
「いや、急に一人足りなくなったんだ」
「そういわれても運動苦手だしなあ」
「頼む、助けると思ってやってくれ」
「まあそこまで言われるなら、私も鬼じゃないし」
「良かった、助かるよ」
「ところでポジションはどこ?」
「ボランチでどうだい」
「なるほどこれがホンマの、ボランティアや」
唐揚げはいくつ?
「鶏の唐揚げは、沢山あったほうが美味しいな」
「そりゃそうだろう」
「二個や三個じゃ寂しいだけだ」
「まあ五、六個あればいいけどね」
「おれだったら10個ではまだまだ足りない」
「それだけありゃぁ十分だよ」
「実は唐揚げには一番美味しい数があるんだね」
「なんだって、じゃあいくつあれば良いんだい」
「11、12、13、いやもう一つあれば最高」
「・・・」
「14、ジューシーが一番だね」
なに、笑えずに寒くなったって。
そうそれが一番です。
2009.05.12 Tuesday
ビアンカの思い出
ビアンカの思い出
若かりしころは色々と親不孝をしてきたもんだ。
その中でも最たるものが、ふらっと海外に出かけてしまったことだろうか。
何しろ心配する両親に何の連絡も取らず、3ヶ月も放浪していたんだから、悪い息子だ。
苦労して入った大学を休学して、一人向かった先は中南米。
せっかくだからアメリカやヨーロッパへ行けばいいのに、何の気まぐれかこちらを選んで旅立った。
旅行といっても安宿を求めてのヒッチハイクで、行き当たりばったりの一人旅だ。
それでも片言の英語が意外に通じて、不安はなかった。
手持ちの金が無くなると、図々しいことに親に電話を掛けて送金してもらう。
文句を言いながらも心配してくれる母親に 、背を向けて金をせびる悪い放蕩息子だった。
そんな旅も、突然に終わりを迎えることになる。
旅の最後にたどり着いた国は「ニカラグア」
中央アメリカでは最も大きい国だ。
そこの安宿で仲良くなったのが、ビアンカという若い娘だった。
なんていうことはない、お世辞にも清潔とは言い難いようなおんぼろ宿の一人娘で働き者だった。
朝早くから陽気な歌声で俺の目を覚まさせる。
料理はあまり上手ではなく、時々は半生の怪しげなものがでてきたりするが、幸いに腹をこわすこともなく、快適な日々だった。
いつの間にか月影の下で二人きり、そっと未来を語り合うような仲になっていた。
「よかったらうちの養子にならないかい」
「それもいいかもしれないね」
強引なオルテガ親父の誘いに、心が動かされそうになってきていた3週間目の昼下がりだった。
「ハルオ、電報だ」
親父が差し出した紙切れには英語で
「ハハキトク、スグカエレ」
というような文字が書かれていた。
慌てて帰国の便を手配するも、乗り継ぎで明日の昼にならないと出発しないという。
仕方なくこの宿で最後の夜を過ごすことになった。
もう手持ちの通貨は要らなくなったので、全部をビアンカに渡し。
「これで君の好きなものを買っておいで」
ひとり町に送り込んだ。
その夜はオルテガ親父が送別のパーティーをやってくれる手はずになっていた。
「ただいまー」
そこに帰ってきたのが最愛のビアンカだ。
興奮さめやらぬ表情で、買い物籠を差し出した。
「何を買ってきたんだい?」
「ハルオの大好きなものよ」
聞くと、珍しいことにこの町にたった一つのデパートで「外国フェアー」をやっていたとか。
そこでわずかに並んでいた日本の特産品を買ってきたという。
(もうすぐ帰るんだから、わざわざ高いものを買ってこなくても良いのに)
彼女は結局有り金残らずつぎ込んで、その「特産品」を買ってきたんだった。
「私、これでハルオに美味しいもの作るね」
彼の地で最後の晩餐に、恋人の故郷の名物を使おうという、いじらしい娘心だった。
しかし、袋を開けて仰け反った。
「なんだ、こりゃー」
そこには慎重にパックされた「山葵」がごっそり入っていた。
「高かったのよ」
自慢げなビアンカと、天を仰ぐ私。
そんな大量の山葵を、刺身に付けることも出来ず、きざんで炒めて食べた。
「美味しいか?、もっと食べて」
山葵炒めを食べると、辛さに涙が出てきた。
「泣かないで、ハルオ、私まで悲しくなっちゃう」
これもさんざん親不孝をしてきた報いなんだろうと、山葵を噛みしめて気が付いた。
そうか、これが
「ニカラグアでわさび」か。
2009.03.23 Monday
熊と旅人
ニセ・イソップ童話
「熊と旅人」
チビとデブとノッポの3人の男が旅をしていました。
ある大きな森の中の道を歩いていると、目の前に1頭の熊が現われました。
3人はあわてて逃げ出します。
ノッポとデブの二人の男は、持っていたロープを使ってすぐに近くの大木によじ登りました。
でももう1人のチビは逃げ遅れてしまい、仕方なく地面に倒れて死んだふりをしました。
熊はそのチビの耳元に口を当てていましたが、しばらくすると森の奥に姿を消してしまいました。
木の上の二人は、安心したので降りてきました。
「何で助けてくれなかったんだよ」
チビが怒ってこう言うと、ノッポが
「いやあお前さんが小さいから、手が届かなかったんだ」
「だからって、見捨てて逃げるなんてひどいじゃないか」
「すまんすまん、お詫びのしるしにこのロープをあげるよ」
チビがロープを上手く使って、木に登ります。
「なるほど、これは便利だ」
木の下から二人が
「熊は君の耳に何かささやいていたようだが、何て言っていたんだね」
と聞いたところ、チビはこう答えました。
「ああ、こんなことを言っていたよ」
「危ない時に、友達を見捨てて、自分だけ逃げるような薄情な相手とはもう別れろ、ってね」
「それからもう一つ、お前さんを助けてやるから、その代わりにあの二人を食べさせてくれないかってさ」
気が付くと、ノッポとデブの周りを熊の一群がぐるりと取り巻いていました。
2008.06.06 Friday
讃酒詩
2008.05.13 Tuesday
なんでやねん
長野での聖火リレー
見えたのは警戒のガードだけ。
どうにもこうにも成果が見えませんでした。
オリンピックの懸念
中国人
「チベット」の支配が問題です。
日本人
「チケット」の手配が問題です。
「あたかも」で例文を作れ。
冷蔵庫にたぶんバターがあたかもしれない。
インサイダー取引
人に隠れて、影で清涼飲料水を売買すること。
目からウロコが取れる。
おまえの目には何枚ウロコが入ってるんだ。
目で魚飼ってんじゃないのか?
2008.05.05 Monday
生きていること
生きていること
喜びは光
全ての物を照らし、輝かせる
怒りは火
正しくコントロールしないと、自らを滅ぼす
哀しみは雨
止まない雨はなく、やがて命の芽吹きがある
楽しみは風
吹かれているだけで、気持ちが良い
すべての感情は、生きているあかし
2008.01.07 Monday
横綱の決意
(これはフィクションです)
2008年1月1日の朝、横綱「モーニング・ブルー・ドラゴン」は決意した。
(初場所にすべてを賭ける)
思えば長い苦難の道のりであった。
何気ない思いつきでやった、しかも頼まれて渋々出たサッカー遊び。
それがまさかこんな事態を招くとは思わなかった。
おかげで精神状態まで悪くなってしまい、去年は散々な年になった。
しかし今年は違う。
稽古も順調だし、体も回復した。
今の状態は全盛期よりも良いぐらいの出来だ。
あまりに良すぎて、手加減しないと相手に怪我をさせてしまうぐらいなのだ。
しかし問題は精神力。
長い休場のブランクは大きい。
そんな時に頼りになるのは、親方、ではなく神様か。
(よし、苦しい時の神頼みだ)
思い立って、近くの神社にこっそりと参拝に出かけた。
「パン、パン」
周囲が驚くような大きな音で柏手(かしわで)を打ち、お賽銭をあげる。
(えーい、大奮発だ)
懐から出した百万円の札束を、思い切って2束放り投げた。
驚く周囲を横目に、颯爽と相撲部屋に帰ってゆく。
さっそく親方に報告をする。
「今年の初場所に、全身全霊を賭けて挑みます」
「そうか、頑張れよ」
「強い横綱を見せつけるためには、千秋楽に横綱同士の全勝対決でいきたいです」
「お前の調子なら、それも夢じゃないな」
「そして憎っくき ホワイト・ホー を倒して全勝優勝で完全復活です」
「うーん」
「そのために、さっき神社にお参りしてきました」
「なに!お前がか」
「もうこれで万全です」
帰ろうとする横綱を親方が止めた。
「残念だが、お前に全勝優勝は出来ない」
「えっ、どうしてですか」
「全勝はおろか、1敗、2敗での優勝も無理だ」
「そんな馬鹿な、ワシは絶好調です」
「さっき神社に行ったのが敗因だ」
「そ、その理由は」
「お前は既に参拝している」
2008.01.05 Saturday
世界一のカラオケ
「世界一のカラオケ」
「バンドやろうぜ」
懐かしい友からの電話だった。
大学を卒業してからもう20年が過ぎている。
その学生時代に、気の合う仲間同士で組んでいたロックバンドがあった。
当時活動していたバンド仲間で結成した「ロック研」のOB会があるんだという。
「そこで昔のグループが演奏するんだ」
いくら何でもぶっつけ本番というわけには行かず、久しぶりに集まって練習しようというお誘いだった。
5人のメンバーのうち、都合の付いた4人が参加して、新横浜のスタジオで練習が始まった。
リーダーのOは、今だにギターの練習をしていると言い、昔に衰えないギター捌きだ。
しかしそれ以外はほとんどがシロウトの状態で、とても昔の面影はない。
その中でも一番ひどかったのが、私の担当するボーカルだった。
何しろ曲は忘れているし、声は出ない。
そしてリズムにも乗りきれないという、最悪の状態だった。
OB会では、時間の都合で各グループ2曲だけの演奏になる。
相談の結果、曲目が決まった。
一曲目はフリーの名曲「ウィッシング・ウェル」
ギターが引っぱるアップテンポの曲で、これはそこそこ様になってきた。
二曲目はOの提案で「サムデイ・サムタイム」
実は我がグループ唯一のオリジナル曲で、作詞作曲はこの私。
ところが作った本人が忘れていて、進行すらおぼつかない状態になっている。
それでも辛抱強く、スタジオの予約時間ギリギリまで練習を続けた。
「後は個人の練習次第だな」
「すまん、何せブランクが長いからなあ」
私以外の都内在住メンバーは、もう一度集まって練習をするのだという。
足を引っぱらないように駆けつけたいが、私の住む静岡からはさすがに遠い。
「本番頑張ろうぜ」
最終の新幹線で新横浜を後にした。
本番まではあと1ヶ月、それまでに何とかしなくては。
それから数日、自分ながらに練習をしたが、なかなか上手く歌えない。
(まあオリジナルだし、そこそこ歌えればいいか)
そんな諦めかけの気分が持ち上がってきたある日。
突然彼から速達が届いた。
中を開けてみると、メッセージと共に1個のカセットテープが入っていた。
それは2回目の練習の最後に、カラオケを録音したものだった。
練習に参加できない私のために、わざわざカセットを持ち込んで取ってくれたのだ。
その中にはメンバー全員の気持ちが込められていた。
ドラムもベースも、そしてリードギターも昔と変わらないリズムを刻んでいる。
「サムデイ・サムタイム」20年前に作った、たった一つのグループオリジナル曲。
もしかしたらこれは世界一のカラオケなのかもしれない。
(頑張らなくては)
胸の中に心地よいプレッシャーが沸き上がってきた。
2007.11.06 Tuesday
静岡おでんの叩き売り・後編
さあ、ここにあるおでん、実に見事じゃありませんか。
この美味しそうな匂い、見ているだけで食べたくなる。
ヨダレが出て仕方がない。
ま、こんなお方は、今時おられるはずがない。
さて、静岡おでんの特徴はと申しますと、何と言ってもこの黒はんぺんだ。
見てご覧なさいこのどっしりとした黒はんぺん。
実はこの黒はんぺんには、特別に価値の高い栄養があることをご存じでしょうか。
なにしろ、たった1枚の黒はんぺんに、なんと、黒はんぺん1枚分の栄養がごっそりと入っているんです。
こんな話が出来るのも、私、静岡大学のおでん学科で、おでんを研究したからなのです。
さあ、行きましょう。
すじ肉コンニャク黒はんぺん、玉子にじゃがいもゴボウ巻き、串に刺されて背筋も伸びた、黒いスープの粋なヤツ。
青のりダシ粉で化粧もきれい、おまけに付けた練りからし。
たっぷり入りましたこの静岡おでん。
1000円!千円で声はないか。
そこの奥さん、私の顔ばかり見つめないで、おでんを見てくださいね。
あ、これは失礼しました。
このおでん屋の大川橋蔵、今でいえば静岡おでん界のキムタクといわれておりますこの私。
美人の皆様に見つめられるのは、なれております。
なれてはおりますが、出来ればこのおでんを見ていただきたい。
それでは口開けです。
皆さんがたが、お買い求めになりやすいように。
800円、700円。
もう、美人半額の500円。
はい、そちらのお嬢さん、ありがとうございます。
えっ、お嬢さんじゃない。
「おばさんです」って。
そうですか、いや、お若いからお嬢さんに見えましたよ。
肌なんてぴちぴちして張りがあるし、つやつや光ってるじゃないですか、
この玉子が。
さあ、さあ、続いてどんどん売りますよ。
こんどはすじ肉が大きめだ。
2007.11.05 Monday
静岡おでんの叩き売り
「静岡大道芸ワールドカップ」も無事終了しました。
最近ではアクロバット的な物が主体になっていますが、日本にも古くからの大道芸があります。
その中でも有名な口上として「バナナの叩き売り」があります。
そこで、もし「静岡おでんの叩き売り」という物があったら?
これは間違いなく「静岡大道芸」の主役になるんじゃないでしょうか。
さあ皆さん、本邦初公開、静岡おでんの叩き売りだよ。
「静岡おでんの叩き売り」
えーっ、ただいまからはじめさせていただきますのは、静岡名物大道芸、「おでんの叩き売り」でございます。
あ、ぼくぼく、そこに手を乗せてちゃあぶないよ。
おじさん、おでんの叩き売りだからな。
おとうさんおかあさんがいなかったら、ぼくも叩いて売っちゃうところだ。
ぼくだって、小さなゴボウ巻きぶら下げてるだろう。
おじさん、おでんというおでんは、ぜーんぶ売り物だと思ってるからな。
もう見境無く売っちゃうんだ。
おまけにカラシだって付けちゃうからな。
さあ、危ないから、少し後ろに下がって、下がって、ハイ結構。
さてこれから始まりますは、名物「静岡おでん」の叩き売りでございます。
私どもの販売する「静岡おでん」はそれほど高いおでんではございません。
通常ですと、だいたい、一袋1万円でお買い求めいただいております。
しかし、今日お見えの皆さんには、そんなに高い値段ではお願いいたしませんから、ご安心下さい。
どう見ましても、本日のお客さんは、生活にお忙しそうなので、一袋1万円では、こちらの心が痛みます。
もちろん、一袋1万円でお買い求め下されば、こちらの懐は温まりますので、
ぜひ、一袋1万円で買いたいという、お金が余って仕方がない、という方がおられましたら、先におっしゃってください。
ここにあるおでん全部買っていただいて、早々に店じまいいたしますから。
ま、どうせそういう方は、いらっしゃらないでしょう。
まあ、私のいうことはあまり気になさらないでください。
おでんやというのは、口が悪くできているんです。
でも、腹は悪くない。
ホントですよ、なにしろ、生まれてから一度も腹をこわしたことがないんです。
(続く)
2007.10.12 Friday
金のオノ銀のオノ
ニセ・イソップ童話
「金のオノ、銀のオノ」
ある日正直者の木こりが、川のほとりで木を切っていました。
貧乏な木こりは、愛する妻との二人暮らし、木を切ることだけが収入の全てでした。
今日も一生懸命 木を切り始めたのですが、思い切り振り下ろした手が滑り、オノが川に落ちてしまいました。
川の流れは急で、とても入って探すことなど出来そうにありません。
困った木こりが、悲しくて泣いていると、川から神様が現れたのです。
神様は木こりにこう尋ねました。
「お前は何をそんなに泣いているのだ」
「私はたった一つしかない大事なオノを、川に落としてしまったのです」
「あれが無くては、もう大切な家族を食べさせてゆくことは出来ません」
すると神様は、川から金のオノを取り出して、こう聞いた。
「木こりや木こり、お前が落としたのはこのオノかい?」
「いいえ神様、それは違います」
すると神様は、川から銀のオノを取り出して、また尋ねた。
「木こりや木こり、お前が落としたのはこのオノかい?」
「いいえ神様、それでもありません」
すると神様は、今度は木こりが落とした鉄のオノを取り出して、もう一度尋ねた。
「木こりや木こり、お前が落としたのはこのオノかい?」
「ああ、そうです神様、ありがとうございます」
神様は笑ってこう言った。
「お前は正直者だ、褒美にこの全てのオノをあげよう」
木こりは3本のオノをもらい、喜んで家に帰って行きました。
金と銀のオノは高く売れたので、木こりは大金持ちになりました。
しかし不幸にも、今度は木こりの妻が川に落ちてしまったのです。
困った木こりが、悲しくて泣いていると、また神様が現れて尋ねました。
「お前は何をそんなに泣いているのだ」
「こんどは妻が川に落ちてしまったのです」
すると神様は、川から藤原紀香を抱えて現れ、こう聞いた。
「木こりや木こり、お前が落としたのはこの女か?」
「はい、まさにそのとおりです」
木こりは喜んで、こう答えました。
すると神様はカンカンになって木こりを怒鳴りつけました
「この大嘘つきめ、私を騙すとは怪しからんヤツだ」
そこで木こりはこう弁解しました。
「だって神様、私が正直にその美女が私の女房じゃないと答えたらどうします」
「すると次に神様は川からジェニファー・ロベスを連れてくるでしょう」
神様はびくっとして、隠していた彼女を川に戻した。
「それでまた、私の女房じゃないと答えると、今度は本当の女房を連れてくる」
「そこで私がそうだと答えます」
「すると神様は、私が正直者だから三人全部くれると言うでんしょう」
「でもそれじゃ体が持ちませんよ」
2007.10.08 Monday
ラーメン小話
「親指」
客 「おやじさん、さっきラーメンのスープに親指が入っていたんじゃないの」
主人「あ、大丈夫、心配させてすいません」
「うちのスープぬるいから」
「麺」
客 「おい、このラーメン何でうどんが混ざっているんだよ」
主人「あ、遠慮しないでください」
「余っていたんでサービスしときました」
「おすすめ」
客 「おやじさん、この店の一番のお勧めは何だい」
主人「え、うちは何でも旨いんだよ」
客 「その中でもお勧めはないの?」
主人「だから全部お勧めだって言ってんだろう!」
客 「じゃ、瓶ビールくれ」
「スープ」
客 「おやじさん、このスープ旨いねえ」
主人「ありがとうございます」
客 「なんか秘伝の出汁とか入ってたりして(笑)」
主人「そんなことはありませんよ」
(やっぱり隠し味は「サッポロ一番」がいいか)
「ギョウザ」
客1「このギョウザの具、やけに固くないか」
客2「いや、これぐらいで良いと思うよ」
客1「前はもっと味があったような気がするなあ」
主人(やっぱり段ボールはダメか)
2007.02.26 Monday
一皿のライス 2
(続き)
「ごちそうさまでした」
お勘定を受け取った店主は、明るい大きな声で送ります。
「ありがとうございました」
「またどうぞ」
気のせいか、親子連れの背中に、元気が出てきたようにも見えました。
私も食事を終え、帰る時にふと尋ねました。
「先ほどの親子だけれど、ラーメンでもご馳走してあげれば良かったな」
「いえ、それはいけません」
「どうしてだね、可哀相じゃないか」
「それは単なる同情です、何の役にも立ちません」
「おや、同情するのは、悪い事かね」
気色ばんで私がこう尋ねると、彼は答えて言いました。
「あの小さい方の子供は、障害児のようでした」
「母親、そして本人の苦労も大変なものだと思います」
「でも、人に甘えていては駄目なのです」
「結局自分の道は、自分で切り開くしかないのですから」
私は、自分の心を恥じながら、ふと思った。
あの大きい方の子供が就職して、お給料を貰ったら、きっと親子で食事をするのだろう。
そうしたらその時のライスは、一体どんな味がするのだろうか。
その時に、今食べたライスの味を、思い出すのだろうか。
「でもね、お客さん」
「あのライス、大盛りだったんですよ」
店主は、はにかみながら、小声でこう言った。
師走の風が、少しばかり暖かく感じられた。
2007.02.25 Sunday
一皿のライス
一皿のライス
昭和××年12月、年の瀬も押し迫った頃、私は静岡市××通りの中華料理店で食事をしていました。
夕暮れ時の混み合う店の片隅で、出された一杯のラーメンをすすっていると、そこに小さな声が聞こえてきたのです。
「あの、ライス一皿だけなんですけれど、よろしいでしょうか」
見ると、40歳ぐらいの、粗末ななりをした女性でした。
それだけでも充分人目を引くのですが、その人は脇に二人の子どもを連れているのです。
大きい方は中学生、小さな方は小学5,6年ぐらいでしょうか。
そして、かばうようにしていますが、弟の方は、どうも障害を持っている様子です。
三人でライス一皿。
おかずもなく、醤油でも掛けて食べるというのだろうか。
いぶかっている私でしたが。
「はい、けっこうですよ。どうぞお座り下さい」
若い店主は、嫌がる顔ひとつせずに、答えました。
そして
「すいませんが、ご相席をお願いします」
と、私の方に向かって、こう頼むのです。
「ええ、どうぞどうぞ」
不意を付かれた私は、この笑顔の店主に比べて、自分は、何と寂しい目をしていたのではないかと思い、慌てて食べかけの丼を横に寄せたのです。
親子連れは、私の前に座りました。
そして、注文のライスは直ぐに出てきました。
しかし、出てきたのはそれだけではなかったのです。
「はい、お待ちどうさま」
と差し出されたのは、大きなお皿に盛られたライスが一つ。
小皿にいっぱいのお新香、そして、刻みネギの浮いたスープでした。
「あ、あの、頼んだのはライス、一皿だけなんですが」
「うちのライスには、スープとお新香が付いているんですよ」
「冷めないうちにどうぞ、お召し上がり下さい」
「あ、ありがとうございます」
親子三人は、その一皿のライスと、お新香とスープを、一口ずつ分け合って、本当に美味しそうに食べたのでした。
続く
2005.08.09 Tuesday
樹根地蔵
マルキン日本昔話−1
「樹根地蔵」
むかーし、むかーしのことじゃった。
あっぱれ村にクニ吉とミホという、仲のよーい夫婦が住んでおった。
貧乏な二人は、正月も近いというに、餅も買えず困っておった。
おおみそかの朝、クニ吉はため息をつきながら こういった。
「そうじゃ、物置に古い鍋があったはずじゃ。
これを町に売りに行こう。
餅が買えるかもしれん」
「そうですねえ、クンちゃん。お願いしますよ」
さっそくクニ吉は鍋を担ぎ、町へと出かけていった。
「やっぱり売れんのう。おや、雪が降ってきたぞ」
大晦日の忙しいさなか。鍋を買ってくれる人など。いるわけがありません。
「うー寒くなってきた。仕方ない、帰るとするか」
重い鍋を下げ、震えながら家路に向かうクニ吉です。
町を出て、途中の野原まで来ると、クニ吉はおじぞうさまを見つけました。
「おお、お気の毒に、こんなに雪にさらされて、さぞお寒いだろうに」
クニ吉は、おじぞうさまの体に積もった雪を払ってあげるのでした。
「そうじゃ、この鍋をかぶせてさしあげよう」
クニ吉は、売れなかった鍋を、おじぞうさまにかぶせてあげたのでした。
「ただいま。帰ったよ」
「クンちゃんごくろうさま。寒かったでしょう」
「鍋は、売れましたか」
「いやー売れんかったあ」
クニ吉は、ミホにおじぞうさまの話をしたのでした
「それはいいことをしましたねえ。おじぞうさまも寒かったでしょうに」
疲れたクニ吉とミホは、その晩はぐっすりと眠りについたのでした。
その晩のことです。
ドンドンドン。
真夜中に戸を叩く音がします。
ドンドンドン。
「はいはい、今出ますよ。こんな夜中にどなたですか」
身支度をしたミホが戸を開けると、そこには鍋を乗せたおじぞうさまが。
「わっ」
驚きひっくり返る二人。
「ちょっとちょっとクン子、ひどいじゃないのよ」
「あんたのかぶせた鍋、逆さまよ」
「雪が中に積もって、余計ひどくなったわよ」
「す、すいません」
ひらあやまりのクニ吉とミホ。
「それにねえ、私お鍋が大嫌いなのよ」
「私が好きなのは、オ、カ、マ。分かった」
「し、しつれいしましたー」
2005.03.24 Thursday
「水戸黄門」 第5話
第5話 「結びの一番」
配役
水戸黄門 ジンちゃん
助さん スギちゃん
格さん オオキちゃん
松ベイ マッチャン
かげろうお銀 オカアサン
シンノスケ シンチャン
ジイ ソネジイ
孫娘のお黒 クロちゃん
吉の屋主人 ヨシちゃん
越後屋 タダちゃん
コロ丸 コロちゃん
さて、「奉納大角力」結びの一番の前は、素人飛び入り参加による勝ち抜き戦。
勝ち残りましたは、まず順当に浪人シンノスケ。
こなた、どこでどう間違ったか「うっかり松ベイ」 この両者による決勝戦です。
行司 「ひが−し−シンの山。に−し−マツの海」
黄門 「松ベイ。心して掛かりなさい」
松ベイ「へへへ、ご隠居様、優勝したらお団子を腹一杯食べさせてくださいよ」
お銀 「松ベイさん、しっかりやるのよ」
一方こちらシンノスケにはジイとお黒をはじめ、吉の屋一同も総動員。
お黒 「きゃ−シンノスケ様 頑張って」
ジイ 「あんなヘナチョコ野郎に負けたら承知せんぞ」
満場の観衆見守る中、仕切りに入る両者です。
緊張した面もちのシンノスケと、意外にも余裕の表情はうっかり松ベイ。
制限時間一杯の中、軍配が返ります。
行司 「ハッケヨイ 残った!」
両者気合い十分でぶつかり合った、と思いきや松ベイの両手がバシンと打ち鳴らされます。
松ベイ得意の奇襲作戦「猫ダマシ」炸裂です。
シン 「む、卑怯な」
目を眩まされたシンノスケは、成す術もなく土俵際に押し込まれます。
ここぞとばかりに渾身の力を込めて押し込む松ベイ。目を閉じるお黒です。
徳俵に掛かる足だがシンノスケこらえきれずに、土俵下に縺れ落ちる両者
松ベイの作戦大成功か、と思ったその瞬間、行司の軍配がさっと東に返ります。
行司 「勝負あった、電気がま」
肩を落とす松ベイ、土壇場で痛恨の勇み足でした。
松ベイ 「トホホ、お団子はお預けか」
黄門 「いやいや、松ベイよくやりましたよ」
助さん「それにしても猫だましとは考えたな、松ベイ」
格さん「それよりご隠居、いよいよ結びの一番ですよ」
さてさて、いよいよ結びの一番、口上と共に呼び出しを待つ両者です。
行司 「ひ−がし−、コロま−る−。に−し−、やま−きち−」
お代官様の両隣には、緊張した面もちの越後屋と吉の屋が見守っております。
代官 「越後屋、吉の屋」
両者 「はは-っ」
代官 「この一番、勝った者に専売の印を申しつける。良いな」
両者 「異存ございません」
自信満々の越後屋と、暗い表情の吉の屋ですが、はてさてどうなりますか。
こちら土俵の上では、睨み合う両者。
無表情の山吉に対して、コロ丸の様子に落ち着きがないのは。気のせいでしょうか。
実は、取り組みの前に越後屋が、耳打ちした作戦。
越後屋 「コロ丸さん。山吉は右の足を痛めている。そこを狙うんだ」
軽く頷いたコロ丸ですが、何か思う様子がある。
コロ丸「痩せても枯れても、わしは力士です。正々堂々と倒して見せます」
越後屋「いや、万が一と言うことがある、これには大金が掛かっているんだ」
「どんな手を使ってでも、勝ってもらわねば困るんだよ」
「もし負けるようなことになれば、病気のおっ母さんに飲ませる薬代がなくなるんだ」
「親孝行のあんたが、そんな人の道に外れたことをしちゃあ、いけないよ」
人の道より金の道の越後屋、さかんにたきつけております。
さて、土俵上はそろそろ時間のようです。
行司 「では、時間です、待ったなし」
「はっけよい、のこった」
返る軍配に、両者立ち会い、がしっとばかりに組み合いました。
越後屋「そこだ、押せ」
地力では五分と見られる両者ですが、さすがに足の傷は悪かったようです。
じりじりと寄るコロ丸に、山吉 成す術もない。たちまちに迫る西土俵、将に瀬戸際です。
もはやこれまで、観念した山吉が捨て身の気迫で繰り出す、土俵際でのうっちゃり。
しかし、コロ丸もそうはさせじと右の足を、山吉負傷の左膝に掛けようとするが。
はっと気が付き、足を戻す。代わりに引きつけて、立て直そうとするも、力を込める山吉。
ここぞとばかりに持ち上げたから、たまりません。
そのまま両者一体となって、どうっと縺れ倒れる土俵下。さて軍配はと、衆目の注視するところ。
行司 「やまきち−」
さっとばかりに、西へと挙がりました。
土俵下では、立ち上がることも出来ない山吉を、コロ丸が抱えております。
安堵するご一同ですが、その時一声
「待った。物言いだ」
さっと片手を挙げた者がおります。
これはと見ると、そこには越後屋。
越後屋「今のはどう見ても同体だ。行司は間違ってる」
「そうですよね、お代官様」
この期に及んでも、往生際の悪い越後屋。執念の物言いです。
2005.03.09 Wednesday
「水戸黄門」 第4話
第4話「奉納大角力」
登場人物
越後屋 タダちゃん
番頭の山吉 ヤマちゃん
飛び猿 オキちゃん
関取コロ丸 コロちゃん
手下A シラちゃん
料亭「たこ八楼」の離れで、対峙する越後屋と山吉です。
山吉 「越後屋さん、勘弁してくだせえ」
「わしは、これ以上、旦那を裏切るわけにはいきませんです」
越後屋 「ほう、裏切るとは人聞きの悪い。誰がそのようなことを言いま したか」
山吉 「旦那に内緒でお貸しした、あの焼き印」
「それを偽物に押すなんて、ひどいじゃないですか」
越後屋「おや、この越後屋のせいだとは、とんだ言いがかりだ」
「私は親切心で、お金をお貸ししたんですよ」
「焼き印はその利息分だ。貸し金に利息が付くは、理の当然でしょう」
山吉 「だども、明日の大角力だけは、負けられないですだ」
「これは、お借りした十両、この通りお返しいたします」
懐から取り出した十両の大金。何か子細のある金と思われます。
ぎょっとした表情で小判を見る越後屋。
越後屋「ほう、山吉さん、旦那に打ち明けましたね」
「黙って言うことを聞いておれば、棒引きにしてあげたのに、残念な事をした」
惜しむように懐に入れ、証文を投げ渡す越後屋です。
一月前、魔が差して飛び込んだ素人ばくち。
大負けした山吉の借金を肩代わりした、越後屋だったのです。
越後屋「まあ、返してもらえば、私はどうでも良い事だ」
「山吉さん、明日の大角力、せいぜい頑張りなさるんですな」
意外と物わかりの良い越後屋に、拍子抜けと安堵が混じった山吉です。
山吉 「では、失礼しますだ」
もうこれ以上はご免とばかり、足早に席を立ってゆく。
さて、これを見とどけた越後屋は、襖越しに隣部屋へ声を掛けます。
越後屋「コロ丸さん、今のが明日の相手の山吉だ」
がらっと襖を開けると、そこには一人の大男がかしこまっております。
越後屋「どうだね、勝てるかね」
コロ丸 「へ、へ、へ、もちろんでさ」
越後屋「そりゃあそうだろう、花のお江戸の大角力で、十両の端まで行ったあんただ」
「まあ間違いはないと思うが、よろしく頼みますよ」
コロ丸 「へえ、お任せを」
場面変わって、こちらは安堵の面もちで、「たこ八楼」を後にした山吉です。
山吉 「さあひと安心だ。越後屋さんも話してみればそんなに悪いお人じゃない」
「明日は、旦那のために死んだ気で頑張らねばな」
安心している山吉ですが、なになに越後屋、そんな良いお人ではないのです。
寂しい夜道に入る山吉。そこへ暗闇から二人組のやくざ者が現れます。
手下A「おおっと、あんた山吉さんだね」
山吉 「へえ、そうですが」
返事を聞くやいなや、だだっと殴りかかったからたまりません。
山吉 「な、何をなさいます」
さすがに山吉も武術の心得がありますから、とっさに避けはするが、
相手は二人、たちまちに囲まれてしまいます。
後ずさりする山吉を追い詰めるやくざ者。
手下 「へへ、往生際の悪いやつだ、観念するんだな」
片手に持った角材を振り下ろそうとした瞬間、ぴしっとこめかみに飛ぶ礫。
手下 「いて!何者だ」
お待たせしました、最後の常連オキちゃんこと「飛び猿」登場です。
飛び猿「がはははは!お待たせしたな」
「ではなくて、お若いの だいじょうぶかい」
山吉 「お、お助け下さい」
手下 「なんだ、手前も仲間か、ようし一緒に畳んじまえ」
と、隠した匕首を抜き出して打ち掛かりますが、飛び猿の相手ではありません。
あっという間に叩き落とされてしまいます。
手下 「ちくしょう、覚えてろよ」
捨てぜりふと共に、風を食らっていきます。
飛び猿「とんだ見かけ倒しの奴らだぜ。あんただいじょうぶかい」
飛び猿「あっ、こりゃいけねえ、怪我をしたようだね」
「あんた、家はどこだい」
と、肩を差し出す飛び猿。どうやら越後屋のもくろみは達されたようです。
痛めた足を引きずりながら、吉の屋へと案内する山吉でした。
さて、明くる日、快晴の駿府御城下です。「奉納大角力」のはためく幟のもと
青葉通りに作られた土俵には、たくさんの見物客が詰めかけています。
その中にはもちろんご老公一同、越後屋に吉の屋の姿も見かけられます。
向こう正面の貴賓席には、もちろんお代官様がご見物です。
お目当ては今日の結び一番。
果たして吉と出ますか、凶と出ますか、次回のお楽しみ。
2005.02.17 Thursday
水戸黄門外伝3
第3話 「越後屋の陰謀」
登場人物 代官 ミワちゃん
越後屋 タダちゃん
吉の屋主人 ヨシちゃん
番頭の山吉 ヤマちゃん
水戸黄門 ジンちゃん
かげろうお銀 オカアサン
さて、こちらはお代官のお屋敷。
大広間には急に呼ばれた面々が、不安げにかしこまっております。
吉の屋はじめ、竹細工組合の重鎮です。
代官 「皆の者ご苦労じゃ。駿府名産竹千筋細工、商売繁盛何よりじゃな」
越後屋「はは−、お代官様には有り難いお言葉で」
代官 「ところが、困った噂があってな」
越後屋「はて、どのような噂で」
代官 「この中に、将軍様の意向を借りて紛い物を商っておる、不埒な輩があるのだ」
越後屋「えっ!滅相もございません」
辺りを大仰に見回しながら
越後屋「私どもの中にそのような輩が居るとは、ねえ吉の屋さん」
と、しらじらしく同意を求める。
吉の屋「も、もちろんでございます」
代官 「これが上様のお耳にお入りになれば、飛んでもないことである」
恐縮する一同、なおも続けて
代官 「これもまた、管理するわしが至らぬせいじゃ」
「万が一の事でもあれば、お家は断絶、わしは切腹」
ぎょっとして顔を見合わせる一同です。
代官 「何か良い手だては無いものかのう」
間合いを計るように、越後屋が口を切る。
越後屋「お代官様、申し上げます」
代官 「なんじゃ越後屋、申してみい」
越後屋「これもまた、細工物が勝手に作られ、規範が無いせいにございます」
「これを機に、ご専売となされては如何かと存じます」
代官 「おお!そうじゃな専売と、そうじゃその手があったわ」
「早速明日から、駿府竹細工の名称は、専売とする」
「責任者は、そうだその方、越後屋に申しつけるぞ」
越後屋「はは−、ありがとうございます」
呆気にとられている一同ですが、さすがにそうは上手くいきません。
吉の屋「お待ち下さい!」
「お恐れながら、代表者は話し合いにてお決めいただきたいと思います」
恐れ気も無く、きっぱりと正論を申し立てます。
越後屋「これ!吉の屋さん。何と言うことを」
怒鳴る越後屋を制して、お代官様が一言。
代官 「まあ良い。吉の屋の申すも、道理じゃ」
「ならば申しつける。遺恨の残らぬよう、よっく考えて、選ぶのだぞ」
きりっと見据えながら、間をおくと
代官 「越後屋に期する者、立てい」
さすがに評判の悪い越後屋ですが、裏で細工をしたようです。
ばらっばらっと、10名の内5名が立ちました。
代官 「では、この吉の屋に期する者は」
何と、全くの同数。5名が立ち上がる。
代官 「ふむ、互角か。これはどうしたものか」
はたと手を打って、さも思い付いたように告げるのは
代官 「明日の、奉納大角力、結びの一番にて勝利した方を、適者とする」
「恨み辛み無しじゃ一同、良いな」
一同 「はは−」
去っていくお代官様。思わず顔を見交わすご一同。
それもその筈、吉の屋には3年連続で大関を張る山吉が居るのですから。
悔しそうな顔の越後屋と、ほっとしている吉の屋です。
さて、その日の夜更け。
皆が寝静まった吉の屋の裏門を、そうっと開けて出てゆく人影が一つ。
ちょうちんも持たずに忍び出ていく顔が、月明かりに浮かぶ。
番頭の山吉である。
たどり着いた先は、にぎやかな笑い声と、三味線の音がする高級料亭「たこ八楼」
越後屋「まあ、お代官様、もう一杯」
「おい、何をしとる、お代官様にお酌をせんか」
お銀 「は-い。ただいま」
と、奥からしずしずと出てきたのは、ご存じかげろうお銀、ことぎん奴。
越後屋「なんだ、見かけぬ顔だな、何と申す」
お銀 「ぎん奴と申します。どうぞお見知り置きを」
越後屋「ここいら辺では、見かけぬ顔だな。どこの上がりだ」
代官 「越後屋。まあ良いではないか」
「ぎん奴か。ちと年増じゃが、美しいのう」
と、杯を取って目尻を下げるお代官様。お銀のお酌を受けて、上機嫌です。
さて、そこへ駆けつけた一人のお女中、越後屋になにやら耳打ちをします.
越後屋「ふむ、分かった。離れの間で待っているのか」
「お代官様、ちょっと失礼を」
一礼をして、そくそくと向かう先には、もちろん山吉が待っております。
チラリと視線を投げかけるお銀。やはり何か裏取引があるようです。
2005.02.09 Wednesday
水戸黄門外伝2
第2話
登場人物 吉の屋主人 ヨシちゃん
妻おレイ レイコちゃん
シンノスケ シンチャン
おマリ マリちゃん
山吉 ヤマちゃん
お黒 クロちゃん
マツベイ マッチャン
アサ侍 アサちゃん(特別出演)
水戸黄門 ジンちゃん
かげろうお銀 オカアサン
風車の弥七 カワチャン
場面変わってこちらは、黄門様が目指す竹細工の元締 「吉の屋」
所在なさ気に、壁の張り紙「奉納大角力」を見やるシンノスケである。
おレイ 「お待たせしましたシンノスケさま、手間賃と材料です。お持ち下さい」
シン 「かたじけない。いつも手間をおかけして、恐縮でござる」
おレイ 「いえ、シンノスケさまの竹串は評判がよろしくて」
「これでないと駄目だという、お客様もいらっしゃるんですよ」
シン 「いや、しがない浪人者の手慰みにござるよ」
「では、失礼つかまつった、ご免」
と、薄笑いを浮かべながら去っていく後ろ姿に、哀愁が漂う。
仕官への道のり遠いシンノスケである。
さて見送るおレイの前に飛び込む女客。
おマリ 「ちょっと吉の屋さん。ヒドいじゃないのさ」
おレイ 「あら、おマリさん。いつもご贔屓いただいております」
「いったい何でございましょうか」
おマリ 「あんたの所で仕入れたこの虫かご、とんだ不良品だわ」
声を聞きつけて、あるじの 吉の屋章右衛門が、奥から顔を出す。
吉 「これはこれは、おマリ様どうなされましたか」
おマリは持参の虫かごを突き出す。
おマリ 「これ、この品物、買ったばかりなのに蓋が外れて」
一目見た吉の屋、きっぱりと言い切る。
吉 「これは・・・、手前どもの品ではございませんな」
おマリ 「そんなはずはありません。確かに吉の屋さんで仕入れた品物です」
吉 「失礼ですが、お品を拝見」
「手前どもの品物であれば、底には○に吉の字の焼き印があるはず」
と、自信たっぷりに虫かごの底を覗く。
吉 「あっ、こ、これは」
そこには紛れもなく、○に吉の字の焼き印が押されているのだ。
吉 「失礼いたしました。これは間違いなく当方の品物」
おマリ 「お客さまはカンカンですよ。どうしてくれるのさ」
吉 「申し訳ございません。直ぐに代わりの品を」
パン パンと柏手を打ち、番頭の山吉を呼ぶ、吉の屋章右衛門です。
吉 「これ山吉! 代わりの品をお持ちしなさい」
山吉 「はい、ただいま」
山吉が持ってきた品物を、じっと確かめながら
吉 「ふむ、これは、間違いない」
「おマリさん申し訳ないことをしました。これはホンの気持ちで」
と、懐から小金を出して握らせる。
おマリ 「まあ、今後気を付けてちょうだいよ」
引ったくるようにして立ち去るおマリ。小首を傾げる吉の屋です。
吉 「それにしてもこの焼き印は、私と番頭の山吉しか押せないはずが」
チラリと投げる視線の前に、青ざめてうつむく山吉。
何か子細がありそうな男ですが、鈍感な章右衛門は、気づきもしない。
そこへ、お黒がご案内するご一行の到着です。
お黒 「ご隠居さん、ここが吉の屋さんですよ」
「ごめんください。お黒です。おじさんいらっしゃいますか」
奥から顔を出した吉の屋主人
吉 「おや、誰かと思えば珍しい、お黒じゃないか」
ご一行を見て
吉 「こちら様は?」
お銀 「失礼いたします」
「私ども、旅の者ですが、こちら様は竹細工で有名と伺いまして」
松ベイ 「エヘヘ、それを見せていただけねえモンでしょうか」
おレイ 「そうですか、まあどうぞこちらへ」
実は、吉の屋はジイの遠縁に当たり、子供のない夫婦は
お黒を実の娘のように可愛がっているのである。
おレイ 「そう言えば、おクロちゃん、さっきシン様がいらしてたわよ」
ポッと頬を赤らめるお黒、さすがに松ベイは黙ったままである。
と、そこに突然、馬を駆けはせる武士。代官よりの使いである。
アサ侍 「吉の屋。吉の屋はおるか!」
慌ててはせ参ずる吉の屋主人
吉 「ははっ、これにおります」
アサ侍 「お代官様のお告げである。よっく承れ!」
「吉の屋章右衛門、直ちに、お屋敷まで参るようにとの仰せじゃ」
吉 「はい」
アサ侍 「しかと申しつけたぞ」
ひずめの音も高らかに、駆け去っていく。
慌てて、身支度をする吉の屋である。
さて、あわただしい中、竹細工の見物も終え、宿を取るご一行。
くつろいでいる縁側に「ヒュン」と投げられた手裏剣に踊る風車
弥七である。
付けられた結び文を読んだ黄門様は、お銀を呼びなにやら申しつける。
小さく頷き、ささと外へ出ていくお銀。
いよいよ黄門様の出番のようです。
2005.02.02 Wednesday
たこ八版「水戸黄門外伝」
たこ八版 水戸黄門外伝 「青葉横町青嵐花吹雪」
配役 水戸光圀 ジンちゃん
助さん スギちゃん シンノスケ シンちゃん
格さん オオキちゃん 吉の屋主人 ヨシちゃん
うっかり松ベイ マッチャン その妻おレイ レイコちゃん
風車の弥七 カワちゃん 番頭の山吉 ヤマちゃん
飛び猿 オキちゃん 代官ミワの守 ミワちゃん
かげろうお銀 オカアサン 越後屋 タダちゃん
青葉横町のジイ ソネジイ 吉の屋のお得意客 マリちゃん
孫娘のお黒 クロちゃん 代官の手先 アサちゃん
第1話
春風駘蕩陽春卯月。
うららかな駿府城下町にたどり着来ました、ご存じ黄門様ご一行。
いつも通りの隠密道中でございますが、何か様子がおかしいようで・・・。
ジイ 「こら! てめえなにしてやがんだ」
松ベイ 「何してんだって、あんた、おでんを頂いてるんですよ」
と、答えながら旨そうに串を引き抜く。
ジイ 「なんだと!いい加減にしやあがれ」
ポカッとげんこつで頭を殴る。
松ベイ 「イテテ−。何するんですよ。ヒドいじゃないですか。助さん助けてくださいよ」
仲裁に入る助さん。
助さん 「これ町人、突然殴るとは無礼であろうが」
格さん 「いったいどうしたというのだ、訳を申せ」
ジイ 「なんだてめえら、悪党仲間か!」
と、腕まくりするのを諫めるように、
黄門 「まあまあ、ご老人。とんだ失礼をいたしました」
二人をなだめながら、間に入る。
黄門 「手前、越後の縮緬問屋の隠居、光右衛門と申します」
「この者達のご無礼、深くお詫び申し上げます」
と、頭を下げる。
ジイ 「縮緬だか冷麺だか知らねえが、ほれそこを見るだ」
指さす向こうには、松ベイの投げ捨てた串が。
ジイ 「あれは竹細工の職人が、丹誠込めてこしらえたもの」
「それを粗末にするから、悪党だと言ってんだ」
串を拾い上げたお銀が、拭いながら諭す。
お銀 「そうですよ松ベイさん。あれは銭棒というくらいの物ですよ」
助さん 「そうじゃ!松ベイそなたが悪いぞ」
形勢が悪いと見た松ベイは、謝りの一手だ。
松ベイ 「知らぬ事とはいえ、申し訳ありませんでした、これこの通り」
黄門 「しかし、この竹串、なかなかの物でずぞ、見なさい格さん」
ご隠居から受け取った串をまじまじと見ながら。
格さん 「これはご隠居、いい仕事をしておりますな」
「かなりの名人が削った串ではないかと」
そこへ、隠れて様子を窺っていた、ジイの孫娘「お黒」
お黒 「当たり前だい。その串はシンノスケ様が削ったんだぞ」
格さん 「ほう、そのシンノスケとやらは、何者ですか」
ジイ 「いえ。ただの浪人者で、内職をしております」
松ベイ 「と言うと、娘さんあんたのいい人なんじゃないのかね?」
凝りもせず茶々を入れる松ベイに
お黒 「知らないっ!」
と、向こうへ駆けだしていく。
黄門 「そう言えばご当地駿府は、竹細工で有名でしたな、格さん」
助さん 「はい、確か竹千筋細工と申しましたが」
助さん 「ご老人。この近くに竹細工の店は、ご存じかな」
ジイ 「はい、吉の屋というお店があります」
黄門 「それでは、ちょっと訪ねてみますか」
いつもながら珍し好きの黄門様。ご一行は町の竹細工店へと進みます。
場面変わって、ここは代官のお屋敷。悪人相のお二人が、なにやら相談を。
代官 「越後屋、久しぶりじゃのう。元気か」
越後屋「これはこれは、お代官様にはご機嫌麗しゅう」
代官 「まあ良い。して、用件はなんじゃ。儲け話か。早う申せ」
越後屋「いつもながら、お察しの早い」
「実は、竹問屋の吉の屋でございます」
代官 「おお、あの女房にお前が懸想しとる、吉の屋か」
越後屋「と、とんでもありません、お代官様。儲け話で」
「実は、ご当地の竹細工、ぜひとも専売にしていただきたいと」
代官 「これはまた、どうしてじゃ」
越後屋「は、最近粗悪品が多く出回りまして、皆困っております」
「これは将軍様の名誉を傷付ける悪行。ぜひともご専売をと」
代官 「なるほど、専売にすれば、お主も丸儲け」
「困った吉の屋の女房が、泣きついてくると言う読みじゃな」
越後屋「め、滅相もありません。お代官様もお人が悪い」
「この越後屋の専売になりましたときには、相当の御礼を」
代官 「は、は、はその何倍ももうけるのであろうが、お主も悪よのう」
越後屋「お代官様こそ」
二人隠しきれずに、含み笑いを交わす。
しかし、天井裏には風車の弥七が聞き耳を立てている。
弥七 「これは、ご老公様に報告せねば」
ましらのごとく駆け去っていく弥七である。
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