静岡ラーメン放浪記

ワンフ＠伝説の店

　静岡市内には、ラーメンを出すお店が沢山あります。
しかし、ラーメン店と言ってもその肩書きは様々です。
その中で多いものは、「中華料理店」や「ラーメン専門店」ですが、「食堂」というのも結構ありますね。

　いろんな店がありますが、こんな看板を出している店はまずここだけでしょう。
かなりの年季ものですが、夜の闇にぼんやりと輝く照明。
そして浮かび上がるその看板にはなんと「中華スナック」と書かれてあります。
この看板だけでも一見の価値があると思います。

　さて、その中華スナック「ワンフ」のある場所は、静岡の繁華街から少し離れた辺りで、営業も夜間のみです。
しかしご主人の腕は素晴らしいもので、食通の間では評判の名店でした。

　といいましても、今から２０年ほども昔の話です。
そのころは飲み会の最後に行く店の定番でした。
まずは名物の「カニタマ」か「餃子」をたのんで、紹興酒で乾杯。
最後のシメに「ワンフ＝メン」という辛口のメンをいただくのがきまりになっていました。

　この紹興酒が、洒落たガラスの徳利に入っていて、なかなかに風情がありました。
でも安定が悪くて、良く入れ物を倒してはご主人に睨まれたものです。
まあ、徳利が倒れやすいのか、わたしが酔いすぎていたのかは、自明ですけどね。

　その時分は深夜まで営業されていたので、ここぞという時のあてにしていたのですが、近年はお終いも早まったようです。

　そんなこんなで、ずいぶんご無沙汰していたこともあり、今日はここ「ワンフ」を尋ねることにしました。

　いつもながら人通りの少ない人宿町の通りを進みます。
少しばかり心配していましたが、お店の明かりは点いていたので、ひと安心です。
ガラスのドアを開けてお店に入ると、先客の中年男性が一人だけでした。

　テレビではちょうどサッカーの日本中国戦をやっています。
「あ、日本勝ってますか？」
「１点リードしてるよ」

　向かいのソファーに腰を下ろして、マスターに
「ワンフーメンお願いします」
「今はやってないんで」
「あ、そうですか、ではラーメンお願いします」

　思い出した。
そういえば辛口のワンフーメンはやめてしまったんだった。
さすがに今日はお酒を飲む元気はなく、ラーメンだけの予定であります。

　このマスターが無口で、ほとんど喋らないので有名なんです。
しかし仕事は凄い。
いつでも清潔な白い調理着姿で、大きな中華包丁を小気味良く振るう。
タンタンタンと軽快なリズムが聞こえてくるのは葱でも刻んでいるのだろうか。

　待つほどもなく「ラーメン（８００円）」が出てきた。
器からしてきれいな小ぶりの錦手に、鮮やかな盛りつけだ。
ダシは中華風のさっぱりしたもので、脂っ気は少ない。
しかし奥深いほどのコクがあって、思わずホッとする。

　具には大ぶりのチャーシュー１枚に大きめの角切りメンマ。
メンマがこりこりとしていて良い歯応えだ。
麺はストレートの細麺で茹でかげんもよろしい。
ホントに久しぶりにいただくワンフのラーメンですが、昔と変わらない味わいが嬉しい。
あんまり美味しいので、とうとうスープまで完食してしまいました。

　ラーメンのスープは必ず残すようにしているのですが、何と数年ぶりに飲み干してしまいました。

（やっぱりたまには来ないといけないなあ）
今度は友人と一緒に「カニタマ」で一杯やりましょうか。